Machida Hiroo

ライター&シナリオライター・町田広尾のサイトです

【2016年ベストドラマ】『ラヴソング』藤原さくらという新しい才能

『ラヴソング』

2016年も残りわずか。今年のテレビドラマで一番話題になったのは、『逃げるは恥だが役に立つ』だろう。

 普段ドラマは観ないけど『逃げ恥』にはハマった、ガッキーがかわいすぎて逆に憂鬱になった、「プロの独身」を「プロの童貞」だと勘違いしていた、なんて方も多いのでは?

僕は新しいドラマがスタートすると、何はともあれ初回の放送はすべて観て、気に入った番組は毎週録画→ブルーレイ保存するというドラマ好きである。

2016年もたくさんのドラマを観た。そこで視聴率には関係なく、本当に面白いと思うドラマベスト3を選んでみた。まずは第3位から。

【3位】ラヴソング

『ラヴソング』

テレビドラマの世界で主役を務める俳優というのは限られている。大体いつも同じような顔ぶれだ。つくり手としては知名度や視聴率など、さまざまな思惑があるに違いないが、視聴者としてはいつも新しい才能が現れるのを待っている。

福山雅治が結婚後、初の連続ドラマ主演を務めることが発表された『ラヴソング』。そのヒロイン役として発表されたのは、シンガーソングライター・藤原さくらだった。当時、ミュージシャンとしての知名度もまだまだだった彼女。その名を見た人の多くが「誰?」と思っただろう。だが、本作で彼女の才能は一気に広く知られることになる。

藤原さくらの圧倒的な「熱量」

元プロミュージシャンの男と、吃音(きつおん)に悩む女性の、音楽を通したラブストーリー。トップクレジットは福山雅治だが、物語は藤原さくら演じる佐野さくらの成長をメインに描かれる。実質の主人公は彼女だと言っていい。

俳優としての経験がない彼女の演技は、決してうまいわけではない。だがその経験や技術のなさを上回るほどの強い「熱」を感じる。具体的に目に見えるものではない。しかし佐野さくらという役を生きてやろうという藤原さくらの「熱」が画面越しにビシビシと伝わってくるのだ。観ている者は、この熱に引っ張られていく。

劇中で佐野さくらが成長していくのとシンクロするように、藤原さくらもまた俳優として成長、開花していくのが手に取るように分かる。その過程がとても面白い。

『ラヴソング』

とにかく一生懸命な新人俳優・藤原に対し、何十倍ものキャリアを持つ福山は、適度に力の抜けた芝居で返す。近年、どこか現実感のない役が多かった彼だが、今回は(少々特殊な職業ではあるものの)普通の中年男。ナチュラル福山の新鮮な魅力を見ることができた。

「本物」の音楽が胸に響く

本作の大きな要素として「音楽」がある。福山、藤原ともに本業はミュージシャンだけあって、音楽が絡むシーンはどれも素晴らしい。当然なのだが「本物」なのだ。それもまだあまり知られていなかった藤原を起用しているだけに、余計なバイアスがかかることなく、純粋に音楽の良さが響いてくる。

個人的には本作を、ラブストーリーとしてというよりは「自分に自信の持てない男女」の成長物語として観た。「ラブストーリーでキュンキュンしたい」人よりも、「何か自分を肯定できない」そんなモヤモヤした気持ちを抱えている人が、救いを感じられる。そんなドラマだ。(町田広尾)  

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