【2016年ベストドラマ】『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』坂元裕二が魅せる本当の「連続ドラマ」
前回、前々回とドラマ好きの筆者が、2016年に観たドラマからベスト3を選んできましたが、第1位の発表です。
大盛り上がりの『逃げ恥』を抑えて、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に決定しました!
【1位】いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう
「ドラマは視聴率が取れない」と言われてひさしく、途中見逃してもついていける1話完結モノが主流のドラマ界。そんななか「主人公2人の恋愛の行方をひたすらに見守る」というまさに「これが“連続”ドラマだ!」という気概を見せてくれたラブストーリー。
主演に有村架純、高良健吾、共演に高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎という豪華すぎるキャスト陣。脚本はドラマ好きのなかでは、もはや「神」の称号を与えられている坂元裕二である。
都会で懸命に生きる若者たちの姿が、主人公の杉原音(有村架純)、曽田練(高良健吾)二人を軸に描かれる。
坂元裕二の描く、リアルで詩的なセリフに打ちのめされる
特別、大きな出来事が起こるわけでもないのに、終始ひきつけられるのは、登場人物の感情がディティール豊かに描かれているから。一見、何でもないような会話を積み上げながら、その間にこぼれ出る感情をつぶさに描いていく。
坂元の書くセリフは基本的にはリアリティが重視されている。途中でつっかえたり、言うのをためらったり、ときにはやめてしまったり。僕たちが普段、会話をするときのようにリアルだ。
ヘタなドラマだと、状況や感情をセリフで説明してしまう、いわゆる「説明ゼリフ」のオンパレードだったりしてゲンナリするが(分かりやすくするためだとは理解するけれど)、そういうのは一切ない。
ただ、“リアルなだけではない”。現実的なだけではやはりフィクションとしての面白味に欠ける。ときに詩的な、決めのセリフを入れ込み、観ている者をドキリとさせるのだ。第1話の音のセリフ「不思議だよね。好きな人って、いて、見るんじゃなくて、見たら、いるんだよね」のように。
坂元自身、このようなセリフは意識的に書いているようで、映画監督・是枝裕和との対談集「世界といまを考える 1 (PHP文庫)」の中で次のように語っている。
「決め台詞は本来好きではないんですが、自分のつくるものでは必要かなと思っている。決め台詞自体は、登場人物の感情というより、観ている方への親切心のような想いで書いています」。
とにかく本作には最初から最後まで、坂元の描くキャラクター、セリフに魅了されっぱなしだった。
有村架純の母性に惚れそうに
坂元の脚本に、キャスト陣も最高の演技で応える。特に音を演じた有村架純が素晴らしい。『いつ恋』は有村主演の『夏美のホタル』(監督:廣木隆一)の撮影後にクラインクインとなったそうだが、廣木監督には、少しでも作為的な演技をすると、すぐにダメ出しをされたという。その厳しさで鍛えられた演技が本作に活きたのだろう。
ブレのない自然な演技で、物語の中心を担う。有村演じる音には、大きな母性を感じて、観ていて本気で恋をしそうになったほどだ(恥)。練役の高良健吾も多数の映画出演で培った演技力で、実直な青年・練を好演。それゆえ、第5話ラストでの変わりようには驚愕した。
高畑充希、高橋一生が圧倒的うまさで支える
高畑充希は朝ドラ『とと姉ちゃん』と撮影が重なるも「坂元作品なら絶対に出たい」と出演し、表の顔と裏の顔の二面性を持った女性を見事に演じた。坂元の前作『問題のあるレストラン』から連投となる彼女の芝居は本当にうまい。ちょっとした視線の動きだけでも、繊細に感情を表現する。
うまいと言えば、練の職場の先輩・佐引役の高橋一生。『Woman』(2013)、『モザイクジャパン』(2014)、そして本作と坂元作品の常連となっている彼は、それほど出番が多いわけではないのにもかかわらず、佐引という複雑な役どころを完璧に演じ、強い印象を残す。本作の高橋は最高にカッコイイ。同じ男の僕でも惚れそうになったほどである(恥)。
と、脚本、芝居、演出すべてが最高のクオリティで、連続ドラマの底力を見せつけてくれた『いつ恋』。『逃げ恥』も素晴らしかったが、僅差で1位に選んだ。
さて、2017年1月からは坂元裕二脚本の最新作『カルテット』が放送される。出演は、松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生。ファンからの期待は年々高まるばかりの坂元作品だが、またしてもその期待を越えてくるのか。心して待とう。(町田広尾)
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