Machida Hiroo

ライター&シナリオライター・町田広尾のサイトです

映画『アズミ・ハルコは行方不明』蒼井優の存在感と高畑充希のギャップにやられる

『アズミ・ハルコは行方不明』

もしあなたが、貪欲に面白い映画を観たいと願っているのなら、『シン・ゴジラ』や『君の名は。』だけで満足してはいけない。『アズミ・ハルコは行方不明』を観るべしだ。

 山内マリコの同名小説を、『ワンダフルワールドエンド 』『私たちのハァハァ』の松居大悟監督が映画化。キャストには蒼井優、高畑充希が名を連ねる。

蒼井優と高畑充希が共演! もうそれだけで一も二もなく鑑賞を決定。というわけで、まだ公開日も決まっていなかった8月、新宿シネマカリテで行われた『カリコレ2016』のクロージング作品として、初めて一般公開された上映にいそいそと出掛けてきたのだ。ちなみにチケットは瞬殺でソールドアウト。

蒼井優の存在感、高畑充希の新境地

本作は、ある地方都市を舞台に繰り広げられる群像劇。「28歳の独身OL・安曇春子」と「20歳のキャバ嬢・木南愛菜」「謎の女子高生ギャング団」という3世代の女性たちの物語が語られる。

主人公・春子に蒼井優。地味なOLという役どころだが、「地味さ」はきっちり抑えつつも、その存在感はバツグン。自宅の居間にダラっと座っていたり、気だるそうにタバコの煙を吐き出すだけで、もうサマになる。『百万円と苦虫女』(2008)以来、久々の単独主演作となるが、蒼井優ここにあり。30代となった彼女の魅力を存分に堪能できる。

キャバ嬢・愛菜には高畑充希。少々頭が弱く、男にすぐにヤラせてしまうというキャラクターだが、どう見てもかしこそうで、なかなかヤラせてくれそうにない高畑が演じるギャップがいい。当然ベッドシーンもあるわけで(露出はほぼないYO!)、ドラマ『ごちそうさん』(2013)の可憐な少女っぷりにヤラれて以来、彼女の作品を見続けている身としては、(勝手に)ショックを受けたが、優等生的な役が多かった彼女の新境地を見ることができて◎。彼女の全身全霊で役にぶつかっていく姿にシビれる。

『アズミ・ハルコは行方不明』

複雑な構成が生む、疾走感に酔う

本作は3世代の女性たちを3つのパートで描いているのだが、松居監督は、その時系列を大胆にシャッフル。春子と愛菜の物語を主軸に、あっちに行ったり、こっちに行ったりと時空を自由に行き来しまくる。

「原作が結構シンプルな話だから、これを普通にやってしまうと、勿体ないよねというか、ハルコと愛菜の話が両方走っていて、それが拮抗しているように見せたかった」(雑誌「シナリオ1月号」インタビューより)と松居監督。

3つのお話がポンポン飛び回るので、混乱することこの上なしだが、イチイチ理解しようとするのは野暮ってもん。難しいことは考えず、その構成が生み出すスピード感に身を任せてしまうことが正解だ

お話としては全体的に閉塞感が漂うが、衣装や美術にカラフルな色使いがされており、ポップな印象。途中大胆に挿入される、ひらのりょうによるアニメーション(タランティーノ『キル・ビル』ばり)、プロジェクション・マッピングなど、できる表現は全部詰め込んでやろうという心意気に惚れる

無難な枠に収まらず、とにかく面白い映画をつくってやろうという想いが、ビシビシと伝わってくる作品だ。貪欲に面白い映画を観たいと望む人はお見逃しなく。(町田広尾)

Ⓒ2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会 

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