森博嗣から学ぶ、価値ある文章を書くには?
これまで映画のレビューを中心に書いていたのだけれども、テーマをしぼらず気がついたことを書いていくことにした。何かひとつのことだけに没頭するというタイプの人間ではないし。
作家・森博嗣が好きだ。小説はそんなにたくさんは読んではいないけれど、エッセイが好きでよく読む。 森はこれまでに自身のブログを数多く書籍化していて、『MORI LOG ACADEMY』シリーズもその1冊。計13冊が発売された(現在はおそらく絶版)。ブログは2005年10月から2008年12月まで毎日更新され、作家としての日常や、その日常の中からの「気づき」が森博嗣の切れ味鋭い言葉で書かれていてとても面白い。
その最終巻である『MORI LOG ACADEMY 13』に、ブログや文章を書くうえで、また文章に限らず、何かをつくることにおいて役に立つと感じる箇所があったので、以下に引用したいと思う。
今日は、小説を書くときに僕が気をつけていることをずばり書く。
1)やはり大事なのは、リアリティだと思う。架空の話を書いているわけだから、どこかに「現実味」を持たせる必要がある。抽象的だけれど、ここが小説の一番コアな部分だ。どんな絵空事であっても、どんな突飛なキャラクタであっても、それが存在するように、その人がいるように、読者に感じさせなければならない。
2)次に大事なのは、オリジナリティだろう。1作だけ書いてそれで終わり、という場合は関係ないけれど、プロで生きていくためには、次の本を手に取らせることが大事である。その作品の役目の半分は、次の作品を読みたくさせることだ。
3)ある程度のオフェンス。小説に限らないが、プロのもの書きであれば、その文章になんらかの攻撃性がなくてはならない。それを読んだ人全員が安心し、うんうんと頷くようなものを書いてもしかたがない。「それは違うだろう」と何人かが反発するようなこと、読むことによって、ある人たちに、あるときには、腹を立たせるような要素を持っている必要がある。
4)ある程度のディフェンス。しかし、弱みを持っていては、商品にならないので、最低限の防御は構築しておくことを忘れてはいけない。
5)自己犠牲を覚悟すること。書いた文章によって、「自分が人に好かれる」といった希望をまちがっても持たないことだ。人に好かれるために文章を書いているのではない。少なくともプロは違う。そんな気持ちを持っているうちは、価値のある文章は書けないだろう。
特にハッとさせられたのが、5)の「人に好かれるために文章を書いているのではない。少なくともプロは違う。そんな気持ちを持っているうちは、価値のある文章は書けないだろう」という部分だ。自分の身に置き換えてみれば分かることだけれど、他人の目ばかりを気にして、あたりさわりなくつくられたものに対し、人はわざわざ時間や金を使いはしないのだ。
現在このシリーズは絶版らしく、新刊書店で見かけたことはない。だが、各100個のエッセイが書かれた「クリームシリーズ」「100の講義シリーズ」が発売中だ。こちらもさまざまな「気づき」がたくさん得られて面白い。
つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/14
- メディア: 文庫
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