映画『ふきげんな過去』感想 小泉今日子、二階堂ふみ主演「わからなさ」の「面白さ」
いきなりですが、ちょっとヘンな映画です。予告編を観ると「一人の少女と母親のひと夏を描いた成長物語」という印象を受けますが、そう簡単なお話ではありません。
小泉今日子、二階堂ふみ、高良健吾、板尾創路といった俳優をそろえて、これだけ変わった映画をつくり上げた前田司郎監督に拍手をおくりたい!
「わからなさ」の「面白さ」
はじめに断っておくと、ぼくは前田司郎監督のファンです。前作『ジ、エクストリーム、スキヤキ』のほか、脚本を手がけた映画『生きてるものはいないのか』『横道世之介』、ドラマ『徒歩7分』『お買い物』……。
どれにも彼にしか描けないテーマ、キャラクター、セリフがあり、魅了されてきました。
そして本作『ふきげんな過去』。冒頭に「ヘンな映画」と書きましたが、この映画を説明するのはちょっと難しい。観ていて「わからないこと」がたくさんあります。
小泉今日子演じる未来子、二階堂ふみ演じる果子をはじめ、家族や周囲の人々はいったいどういう人で、何を考えているのか。
彼らの話していることは、どこまでが「うそ」で、どこまでが「本当」なのか。いまいちはっきりとはわからない。ワニって何なの、ある組織って何なの……? 終始、煙に巻かれたような感覚がある。
では「わからない」から「面白くない」のか?。いや、その「わからなさ」が「面白い」のです。
わからなさに、どんどんこちらも巻き込まれていく。最近は映画に限らず、「わからない=つまらない」と見る風潮がありますが、そう切り捨てるのは違うのではないでしょうか。逆に全部わかってしまったら、面白くないのでは? ぜひこの感覚を味わってほしい。
前田監督のつむぎだす、自然かつ笑いを含んだセリフの掛け合いも楽しい。例えば、こんな感じ。
果子「仮に、普通じゃない男が居たとしても、さらに、それとわたしが出会ったとしても別に空が飛べるようになるわけじゃないのよ」
カナ「なんで空飛ぶの?」
果子「だから飛ばないの。つまり結局絶対的な法則からは逃れられないし、想像を超えることなんて起こらない、起こったとしても、すぐに対処できて、想像の範囲内の出来事に収まっていくの」
カナ「へえー」
果子「だから、もともとつまらないものなの、世界は」
カナ「なるほどね」
果子「なにがなるほどなの?」
カナ「、、、、よくわかんなかった。わかるように話してみて、きっと出来るから」
果子「いい。一人で喋ってると変人だと思われるからあんたに喋ってるだけで、これは本質的には独り言だから」
カナ「本質ってなんだっけ?」
果子「ええ? 本物の、、本物(以下、略)」
ビミョーにずれた、本質なことを言っているような言っていないような、でも何かわかるような会話!
「未来の自分は、過去の自分からの想像」というのは、ドラマ『徒歩7分』でも同じようなセリフがありました。言われてみれば、自分もそう考えているかも? と思う。この他にはない「視点」が前田作品の面白さなんです。
二階堂ふみが見せる「普通の女の子」のかわいさ
本作の魅力のもうひとつが二階堂ふみ。彼女はエキセントリックな役も、フツーの女の子の役もどちらもこなす女優ですが、本作では『ほとりの朔子』(2013)で見せたようなごく普通の女の子を演じています。
前田監督は『ほとりの朔子』を観て、「すげえいいじゃん」と思い、彼女に果子役をオファーしたそう。二階堂ふみの魅力が最大に出ているのは『ほとりの朔子』だと思うのですが、『ふきげんな過去』の彼女はそれに匹敵するかわいさを見せているのです!
ファーストシーンから大写しされる、果子の不機嫌な表情。寝起きのぼさぼさの髪。喫茶店で、高良健吾んじる康則を盗み見る目。夏の風にそよぐスカート……。
つくり込まれていない、等身大の自然な女の子である二階堂ふみが全編にいます。 表情はずっと不機嫌なままではありますが。2時間を通して笑顔を見せるのはわずか2回ですから。それも「これは笑顔……?」という感じで。
入り口は「小泉今日子が観たい」でも「二階堂ふみが観たい」でもいい。ぜひこのちょっとヘンな、不思議な映画の世界を体感してほしいなと思います。(町田広尾)
最新記事はこちら!
「ふきげんな過去」プレミアム・エディション【期間限定生産】 [Blu-ray]
- 作者: 二階堂ふみ小泉今日子
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 2016/12/07
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
ふきげんな過去(2015)
監督・脚本 前田司郎
出演 小泉今日子/二階堂ふみ/高良健吾/板尾創路
公式サイト http://fukigen.jp/
©2016「ふきげんな過去」製作委員会