Machida Hiroo

ライター&シナリオライター・町田広尾のサイトです

映画『海よりもまだ深く』阿部寛のダメっぷりが愛おしい

海よりもまだ深く [DVD]

是枝裕和監督の映画『歩いても 歩いても』(2007)がとても好きです。

 何でもない家族の、何でもない夏の一日を描いているだけの作品なんですが、もうウットリするほど良くて。『海よりもまだ深く』は、『歩いても〜』にも出演している阿部寛、樹木希林が再び親子を演じるということで、期待して鑑賞。あまりに良くて、終わったあと「是枝監督、アンタ天才だ!」と叫びました(もちろん、心の中で)。

笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多(阿部寛)。15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、今は探偵事務所に勤めているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。元妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ、息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子(樹木希林)だ。ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。こうして、偶然取り戻した、一夜かぎりの家族の時間が始まるが―。

公式サイトより引用

阿部寛、樹木希林、真木よう子。キャスト陣が素晴らしい

主人公・良多(阿部寛)のダメっぷりが徹底していて、もうたまりません。探偵業の調査費をチョロまかした金をソッコー競輪でスって、後輩の二回りくらい年下の後輩社員・町田(池松壮亮)に金借りたり、別れた妻・響子(真木よう子)に新しい男ができたと知るやデート現場を尾行したり(ここで探偵という設定が生きる)。でかい図体して考えることは非常にみみっちいと言いますか。 本当にダメなんだけど、でも憎めないというか。そんな愛すべきキャラとして、阿部寛がとてもチャーミングに演じています。

元妻を演じている真木よう子も良かったですね。良太のことを突き放してはいるんだけど、 心の奥底では嫌いにはなれないでいる。そんな複雑な感情をうまく表現しています。観ているうちに、良太の気持ちにシンクロしてきて、響子にきつい言葉を投げかけられるたびにツラい気持ちになりましたね……。

そして良多の母・淑子役の樹木希林です。よく俳優に対して「唯一無二の存在」と、ほめ言葉として言いますが、この人ほどこの言葉がふさわしい人はいないんじゃないでしょうか。うまいなんてもんじゃなく、「目の前でその人が生きている」ようです。もう演技にも見えない。演技なんですけど。どうしようもない息子だけど、愛情を持って接している。なんだか自分の母親を見ているようで、この樹木希林にはグッときました。 

歩いても歩いても [DVD]

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『歩いても 歩いても』の阿部寛、樹木希林もいいんですよね

みんながなりたかった大人になれるわけじゃない

最もいいなぁと思ったのは、本作の持つメッセージです。是枝監督は脚本の冒頭に「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」と書いたそうで、劇中にもそんなセリフが繰り返し出てきます。映画に出てくる人たちはみんな、なりたかったものになれない人生を送っている。

でも母・淑子のセリフに「それでも楽しくね、毎日を」とあるように、うだうだ言いながらもなんとかかんとか生きているわけで。まあ世の中の大体の人がそんなもんじゃないでしょうか。でもそれでいいんです。そういうことをさりげなく気づかせてくれる。

だから嫌なことや、うまくいなかいことがあったりした人はこの映画を観ると気持ちが楽になると思います。もちろん嫌なことがなかった人も。エンディングのハナレグミのゆるやかな主題歌「深呼吸」もまたいい。劇場を出たら、きっと幸せな気持ちになっているでしょう。

 

海よりもまだ深く [Blu-ray]

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海よりもまだ深く (幻冬舎文庫)

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 こちらは小説版

海よりもまだ深く(2016)

監督 是枝裕和
出演 阿部寛/真木よう子/樹木希林

公式サイト http://gaga.ne.jp/umiyorimo/

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